大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(ネ)865号 判決

控訴人

大川製麸株式会社

右代表者

大川忠

右訴訟代理人

高橋徳

被控訴人

茂木嘉之

右訴訟代理人

尾関正俊

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所は、当審における新たな証拠調べの結果を参酌したうえ、被控訴人の本訴請求は理由がありこれを認容すべきものと判断する。

その理由は、左記のほかは原判決の理由説示と同一である(但し、原判決理由第五項(原判決七枚目表九行目から同裏末行まで)を次のとおり改める。)からこれをここに引用する。

(控訴人の運行供用者責任について)

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  控訴会社は麸の製造・販売を業とする株式会社であるが、製品等の運搬に供するため昭和四二年一一月九日訴外栃木三菱ふそう株式会社から本件加害車輛(栃一す九八七号普通貨物自動車)を購入し(所有権留保のため登録上、使用者を控訴会社名義として)自らこれを使用していたが、同四四年四月上旬頃にいたり運転に当てる人手も少なく、同車を維持することによる経費、危険性を考慮して同車を他に手離なすこととなり、運送業者の訴外渡辺行雄にこれを売却(代金は月賦支払い)、引渡すとともに同人との間に控訴会社及びこれと事務所を同じくし、かつその代表者の弟大川準を代表者とする訴外日清有機株式会社の「輸送に対し万全を期すこと」の旨の控訴会社の輸送に対する優先的取扱いを約することにより自社使用と同様の運行の便を確保した。

(二)  右渡辺に対する加害車輛の譲渡後においても、同車の自勤車登録上の使用者名義は依然として控訴会社名義のままであつた。

(三)  加害車輛の車体には大きく「大川製麩株式会社」と表示されていたところ、控訴会社はその表示のあるまま渡辺にこれを引渡し、同人はひきつづき本件事故後にいたるまで右表示のまま同車を使用していたが、控訴会社はその消去を求めたことは全くなくそのまま放置していた。

(四)  控訴会社は、右譲渡後何度か渡辺に対し自社製品等の運搬を依頼しており、本件事故当日は加害車輛は、前示約定にある日清有機株式会社のための運搬に使用されていた。そして、事故前後を通じて右日清有機が渡辺に支払うべき運送料は、日清有機から直接渡辺に支払われずに控訴会社が渡辺に対して有している前示割賦金の支払いに当てられていた。

(五)  なお、本件事故当日、加害車輛を運転していた右渡辺の使用人高橋幹男は被控訴人方を訪れ、その妻恵美子に対して、「自分は控訴会社に勤めているので連絡は控訴会社にしてもらいたい」旨述べて控訴会社の所在地と電話番号を告げており、他方控訴会社代表者は、事故の翌々渡辺らとともに控訴人方を訪れ、恵美子に対し自らの名刺をさし出して(甲第一四号証はその時の名刺である)、「逃げもかくれもしない、責任をもつから安心してくれ」と述べて立去り、その後前言の趣旨に則り被控訴人に被害自動車の修理代として七万円を支払うとともに、控訴会社において、同社加入の自動車損害賠償保障保険から被控訴人の人的損害の填補を受けるべく所要の書類をととのえて提出した。

以上の事実を認めることができ(る。)〈証拠判断省略〉

右認定事実によると、控訴会社は訴外渡辺に本件加害車輛を譲渡こそすれ、渡辺に対し、右売却代金の支払いを割賦にし、自動車登録上の使用者を控訴会社としたまま、同社及びこれと密接な関係のある前示日清有機の運送のため優先的取扱いを約させ、車体の使用者表示名もひきつづき控訴会社名のままの使用を許容することにより従前の自社運行と同様の利便を確保し、その際渡辺に支払うべき運送料を右割賦金の支払いに当てて右売却代金の回収を図つていたものであり、事故当日はまさに右日清有機のために同車が運行使用されていたのであるから、客観的外形的には事故当時における同車の運行は、控訴会社自らによる運行と評価すべく、控訴会社は同車の運行供用者に当たると解するのが相当である。《後略》

(杉山孝 古川純一 岩佐善己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例